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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)2327号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人らの求めた裁判

1  原判決を取り消す。

2  控訴人須崎良生に対し、(一)被控訴人田村英一、同島村実は別紙物件目録記載(一)の土地につきなされた東京法務局八王子支局昭和四六年一月一九日受付第二〇三五号、同目録記載(二)の建物につきなされた同支局同月二八日受付第三四三九号の持分各二分の一の各所有権移転登記、(二)被控訴人京友は同目録記載(一)の土地につきなされた同支局同年六月一一日受付第二四二八九号、同目録記載(二)の建物につきなされた同支局同日受付第二四二九〇号の各所有権移転登記、(三)被控訴人富士ビルディング株式会社は同目録記載(一)(二)の土地建物につきなされた同支局昭和四七年二月一七日受付第七〇五六号の所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

3  被控訴人富士ビルディング株式会社は控訴人須崎良生に対し別紙物件目録記載(一)の土地を明渡せ(右2、3は原審昭和四七年(ワ)第三七六七号事件)。

4  被控訴人田村英一、同島村実から控訴人須崎良生に対する八王子簡易裁判所昭和四六年(イ)第三号建物収去土地明渡等和解申立事件につき同年三月四日成立した和解調書に基づく強制執行はこれを許さない(原審昭和四七年(ワ)第九九〇〇号事件)。

5  被控訴人富士ビルディング株式会社の控訴人鈴木康介に対する請求を棄却する(原審昭和四八年(ワ)第五九三四号事件)。

6  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人らの求めた裁判

主文と同旨<以下、事実省略>

理由

(原審昭和四七年(ワ)第三七六七号事件――所有権移転登記抹消、土地明渡請求)

一控訴人須崎がもと本件土地建物を所有していたこと、本件土地建物につき被控訴人らのため右控訴人主張の各所有権移転登記が経由されていること、該登記が右控訴人と被控訴人両名との間に成立した起訴前の本件和解に基礎をおいていること及び被控訴人富士ビルディングが本件土地を占有していることは当事者間に争いがない。

二控訴人須崎は、本件和解の内容たる買戻特約付売買契約は不成立であるか、要素の錯誤又は公序良俗違反により無効である旨主張するので、以下検討する。

<証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  控訴人須崎は、昭和四四、五年ころ数回にわたり自己所有の土地を金久土地に売却したことから、金久土地の代表取締役である本間昭吉(以下「本間」という。)と親交を結び、本間を信頼するとともに、担保提供の見返りを期待して、金久土地が金融を受ける際自己所有の土地を担保として提供していた。右のような担保提供の一つとして、右控訴人は、昭和四五年一二月二八日、金久土地が大王産業から六六〇万円を弁済期昭和四六年一月一五日の約で借受けた際、物上保証人として本件土地建物につき金額六六〇万円の抵当権を設定するとともに、(右抵当権設定の事実は、控訴人須崎と被控訴人田村、同島村、同京友との間においては争いがない。)、右期日に右債務の弁済がなされないときは本件土地建物を右債務の代物弁済とする旨の予約をなし、同月五日本件土地建物につき大王産業を権利者とする右内容の抵当権設定登記及び所有権移転請求権仮登記を経由し、かつ、大王産業に対し本件土地建物の所有権移転登記に必要な権利証、印鑑証明書、委任状等を交付していた。

2  ところが、金久土地の本間及び控訴人須崎は、被控訴人京友の代表取締役佐藤政美(以下「佐藤」という。)から、大王産業は悪質な金融業者で右期限までに右金員の返済をしなければ本件土地建物の所有権を取り上げられるおそれが大きい旨聞かされ、そのような事態を避けるべく、大王産業への返済金を調達するため、昭和四六年一月中旬ころ被控訴人両名に対し右返済資金の融資方を申し出た。

ところで、金久土地は、右に先立つ昭和四五年一二月一一日、被控訴人島村から一一〇〇万円(実際には被控訴人田村もその一部を出していた。)を借受け、該債務担保のため、控訴人須崎の日野市程久保六二二番の一畑(後に地目が雑種地に変つている。)三〇二平方メートルに金額一一〇〇万円の抵当権を設定し、同月一六日その旨の登記を経由していた。

3  そこで、前記昭和四六年一月中旬、金久土地の本間、控訴人須崎、被控訴人両名、被控訴人京友の佐藤らが協議した結果(上記日時に金久土地の本間が被控訴人両名と話合つたことは控訴人須崎と被控訴人田村、同島村、同京友との間において争いがない。)、被控訴人両名が買戻特約付売買の方法により右控訴人に対して金員を支出することとなり、金久土地、控訴人須崎、被控訴人両名の四者間において、被控訴人両名が本件土地建物の代金として右控訴人に対し現実に支払う九三〇万円のほか、前記一一〇〇万円も本件土地建物の買戻特約付売買代金の一部に充当し、更に買戻期日(昭和四六年五月末日)までの利息も右代金に含ませる旨本件和解の内容となる合意をなし、右合意の内容を小見山繁弁護士が書面化し、同年一月一四日控訴人須崎と被控訴人両名が右書面に署名押印して乙第一号証の原本たる契約書を作成し、同日被控訴人両名は右控訴人に対し現金九三〇万円を支払つた。

右合意をなすに際し、控訴人須崎は、本件土地の空地部分を岩崎通信機株式会社に賃貸する交渉をしており、同年三、四月には該交渉が成立する見込みであり、そうすれば、権利金三〇〇〇万円が入手できるから、買戻が可能である旨述べ、本間も金久土地が右賃貸借の仲介をしており、成立の可能性が高い旨説明したところから、買戻期限が同年五月末日とされた経緯があり、また、小見山弁護士は控訴人須崎に対し右合意につき起訴前の和解手続をする旨告げ、(右和解手続予告の点は控訴人須崎と被控訴人田村、同島村、同京友との間において争いがない。)、右控訴人もこれを了承した。

4  前同日、控訴人須崎、金久土地の本間、小見山弁護士の三名が大王産業の事務所に赴いて金久土地の借入金六六〇万円を返済し、大王産業から本件土地建物の権利証、印鑑証明書、委任状等の返還をうけ、前記九三〇万円から右返済金等を差引いた二〇〇万円を右控訴人と本間とが等分して使用し、右権利証等は被控訴人両名に交付された(控訴人須崎が大王産業から返還を受けた本件土地建物の権利証、印鑑証明書を被控訴人両名側に交付したことは、控訴人須崎と被控訴人田村、同島村、同京友との間において争いがない。)。

その後、同年三月四日本件和解が成立したが(本件和解成立の事実は当事者間に争いがない。)、控訴人須崎は、予め和解案の送付を受けていたうえ、担当裁判官から右和解の内容を逐一読み聞かされ、その趣旨を知悉して和解を成立させた。

そして、同年五月二九日被控訴人両名が被控訴人京友に対し本件土地建物の所有権等を代金二四〇〇万円で売渡し(本件土地建物の所有権等の譲渡は代金額の点を除き、当事者間に争いがない。)、同日、控訴人須崎は右譲渡を了承し、被控訴人京友は須崎に対し買戻期限を同年九月末日まで延長したが、右控訴人は右期日までに買戻をしなかつた。

5  本件土地は、巾員二メートルに満たない通路によつて公道に接している状況にあり、そのままでは宅地として販売が困難であつたので、被控訴人京友は、同年一〇月過ぎころ本件土地と公道との間にある日野市程久保七七六番の一雑種地五六平方メートルを買受けたうえ、翌昭和四七年二月一六日三昇に対し本件土地建物の所有権等と右土地とを一括して代金三五〇〇万円で売り渡し、同日三昇は被控訴人富士ビルに対し右買受物件をその地上にある本件建物を収去することも引受けて代金四六〇〇万円で売渡した(被控訴人京友と三昇との間、三昇と被控訴人富士ビルとの間において本件土地建物の所有権等が譲渡されたことは、七七六番の一土地も譲渡の目的物であつたとの点及び代金額の点を除き、当事者に争いがない。)。

なお、控訴人須崎は、昭和四六年一〇月ころまでは本件和解の効力につき異論を唱えたことはなかつたが、同年一二月控訴人鈴木が本件建物のうちの係争建物に居住するに至つてから同控訴人とともに本件土地建物が自己の所有に属する旨主張するようになつた。

以上の事実を認めることができ<る。>

三右認定事実によれば、本件和解の内容たる本件土地建物の買戻特約付売買契約は、売買代金全額を現金で支払つたものでない点は和解条項に記載されているところと一致しないが、右二3に認定したような内容のものとして、控訴人須崎と被控訴人両名との間に成立していることが明らかであるから、右契約の不成立をいう控訴人須崎の主張は採用することができない。

判旨また、前認定の事実によれば、控訴人須崎は、買戻特約付売買契約を内容とする本件和解につき正しい認識を有していたものと認められ、右控訴人の意思と右契約ないし本件和解を構成する私法上の合意の表示との間に不一致は存しないことが明らかであるから、要素の錯誤の主張も採用することができない。

また、本件土地建物の昭和四六年一月一四日当時の価格が五〇〇〇万円を超えることを認めるに足りる証拠は存しない。そして、先に認定した被控訴人京友の本件土地建物の買受価格二四〇〇万円、三昇の本件土地建物とこれに接続する土地の一括買受価格三五〇〇万円、被控訴人富士ビルの右と同一物件の買受価格四六〇〇万円に照し、被控訴人両名の本件土地建物の買受価格二四三〇万円をもつて不当に低額であるということはできないのみならず、仮に昭和四六年一月一四日当時の本件土地建物の価格が控訴人須崎主張のとおりすくなくとも五〇〇〇万円であつたとしても、前認定の事情のもとでなされた買戻特約付売買契約をもつて公序良俗に反するものということはできない。

以上のとおり、控訴人須崎の主張はいずれも採用し難く、本件土地建物が右控訴人の所有に属するものと認めることはできないから、本件土地建物が右控訴人の所有に属することを前提とする右控訴人の被控訴人らに対する抹消登記手続請求及び本件土地明渡請求はいずれも失当として棄却すべきである。

(原審昭和四七年(ワ)第九九〇〇号事件――請求異議)

一被控訴人両名から控訴人須崎に対する債務名義として同控訴人主張の起訴前の和解調書が存すること、及び右債務名義における被控訴人両名の地位が被控訴人京友、三昇を経て被控訴人富士ビルに承継されたとして同被控訴人が承継執行文の付与を受けたことは当事者間に争いがない。

二ところで、控訴人須崎は、本件和解を記載した右和解調書は無効である旨主張するが、その理由のないことは、先に原審昭和四七年(ワ)第三七六七号事件につき判示したとおりであり、また、被控訴人京友と同富士ビルの中間にあつて本件土地建物の所有権等の譲渡に関与した三昇の鈴木藤衛が同会社の代表取締役ではなかつたから、被控訴人富士ビルが本件土地建物の所有権等を取得しえない旨の控訴人須崎の主張の理由のないことは、後に原審昭和四八年(ワ)第五九三四号事件につき判示するとおりであるから、右債務名義の執行力の排除を求める右控訴人の請求は失当として棄却すべきである。

(原審昭和四八年(ワ)第五九三四号事件――建物明渡)

一本件土地建物がもと控訴人須崎の所有であつたこと、右控訴人と被控訴人両名との間に本件和解が成立したこと、被控訴人富士ビルが被控訴人京友、三昇を経由して係争建物を含む本件土地建物を買受けたこと及び控訴人鈴木が係争建物を占有していることは当事者間に争いがなく、控訴人須崎が延長された買戻期限までに本件土地建物の買戻をしなかつたことは、先に原審昭和四七年(ワ)第三七六七号事件の二4で認定したとおりである。

また、本件和解の内容たる買戻特約付売買契約の不成立又は無効の抗弁が理由のないことも右事件において説示したとおりである(なお、被控訴人富士ビルと控訴人須崎との間において争いない事実は同被控訴人と控訴人鈴木との間においても争いがない。)。

二次に、被控訴人富士ビルが三昇から本件土地建物の所有権を譲受けたか否かにつき検討するに、本件土地建物(係争建物を含む。)にかかわる被控訴人京友からの譲受及び被控訴人富士ビルへの譲渡につき、三昇の代表取締役として右行為をした鈴木藤衛がその地位を有していなかつたことは当事者間に争いがないが、<証拠>を総合すれば次の事実を認めることができ、右認定を左右する証拠はない。

1  三昇は、不動産の売買や仲介等を目的として昭和四六年一〇月一九日設立された会社で、昭和四七年二月一六日当時の代表取締役は永澤喜市であり、鈴木藤衛はその取締役にも就任していなかつた。しかし、実際に三昇の経営に従事していたのは、右永澤ではなくて、右鈴木であり、同人は三昇の経営に責任をもつ使用人であつて、「株式会社三昇代表取締役鈴木藤衛」なる名前を所持し、日常これを使用し(被控訴人富士ビル所有の建物の一部を三昇の事務所として賃借する際にも、右名刺を示し自ら三昇の代表取締役として事務所の賃貸借契約を締結した。)、三昇の代表取締役として行動し三昇の業務を遂行していた。

2  三昇は実質上は斉藤幸夫と共に被控訴人京友と被控訴人富士ビルとの間の本件土地建物の所有権等及び日野市程久保七七六番の一土地の売買の仲介者であつたが、売買差益の名目で多額の仲介手数料を取得することをもくろんで、両被控訴人の諒承のもとに、被控訴人京友と三昇間、三昇と被控訴人富士ビル間の二段の売買のかたちをとることとし、被控訴人京友の代表取締役佐藤政美、被控訴人富士ビルの代表取締役木島高昭は、鈴木藤衛が三昇の代表取締役であると信じて疑わず、右鈴木を三昇の代表者として昭和四七年二月一六日本件土地建物等前記物件につき各売買契約を締結した(右木島は、本件訴訟が当審に係属した後、右鈴木は三昇の代表取締役ではない旨の主張がなされ、驚いて三昇の商業登記簿を調査した結果、右鈴木は、右契約当時の三昇の代表取締役ではなく、昭和四八年三月一日三昇が株式会社ソニーハウスと商号を変更した際その代表取締役に就任しているものであることが判明した。)。

右認定事実によれば、右鈴木は、右契約当時、三昇の代表取締役永澤から三昇代表取締役の名称を使用することの承認を得ていた三昇の使用人であつたものであり、商法二六二条は、会社の使用人が代表取締役の承認のもとに代表取締役の名称を使用してなした行為につき、類推適用されると解するのが相当である(最高裁判所第二小法廷昭和三五年一〇月一四日判決、民集一四巻一二号二四九九頁参照)から、三昇は右鈴木のした行為につき責を免かれず、被控訴人富士ビルは係争建物を含む本件土地建物の所有権を取得するに至つたというべきである。

三控訴人鈴木康介が控訴人須崎から係争建物を賃借したことは当事者間に争いがないが所有権を喪失した控訴人須崎からの賃借をもつて所有者たる被控訴人富士ビルに対抗し得ないことはいうまでもない。

四以上の次第で、控訴人鈴木は被控訴人富士ビルに対し係争建物を明渡す義務があるから、同控訴人に対しその明渡を求める被控訴人富士ビルの請求は正当として認容すべきである。

(結び)

以上のとおり、原審昭和四七年(ワ)第三七六七号事件及び同年(ワ)第九九〇〇号事件における控訴人須崎の請求はいずれも失当として棄却すべきであり、また、原審昭和四八年(ワ)第五九三四号事件における被控訴人富士ビルの請求は正当として認容すべきであり、右と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、控訴人らの本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(蕪山厳 浅香恒久 安國種彦)

別紙物件目録<省略>

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